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要旨報告

生命科学におけるビッグデータマイニング- 医療への実践を目指して

主催/共催

第3回生命医薬情報学連合大会 スポンサーセッション

(主催)HPCI戦略プログラム 分野1 「予測する生命科学・医療および創薬基盤」
    (代表機関:理化学研究所)
(共催)HPCI人材養成プログラム(産総研ゲノム情報研究センター(CBRC))

日時

2014年10月4日(土) 9:00~10:30

場所

仙台国際センター2階 大会議室:萩(仙台市青葉区青葉山無番地)

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主旨

HPCI 戦略分野1「予測する生命科学・医療および創薬基盤」(SCLS)では、ゲノム・ビッグデータにみられる大規模な医療情報化の流れに対応した新たな医療基盤の構築を目標に掲げている。この目標は、生命医薬情報学連合大会 2014 が開催される東北の地で、東北メディカル・メガバンクプロジェクトが行っている東日本大震災の被災地における医療復興と相通ずるものがある。そこで、私たちは、医療現場で貢献できる研究基盤として、「京」を中心とする HPCI(High Performance Computing Infrastructure)が果たす役割を明らかにするための場を設けた。本セッションが医学・生物学の学生、研究者に役立てば幸いである。

ビッグデータ解析とR

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門田 幸二(東京大学 大学院農学生命科学研究科 アグリバイオインフォマティクス教育研究ユニット)
次世代シークエンサ (NGS) は、医療やライフサイエンス分野の諸課題を効率的に解決するための道具の一つである。ビッグデータの代表格ともいえる NGS 由来塩基配列データ解析を遂行するうえで、「京」をはじめとしたHigh Performance Computing Infrastructure (HPCI) 上のスパコンを使いこなせるに越したことはない。しかし現実には、NGS データを自在に解析するための一般的な登竜門である Linux データ解析環境構築という壁をクリアできない実験系研究者は多い。その一方で、フリーソフト R はマイクロアレイ解析で利用経験のある実験系研究者が多く、R 環境構築は Linux に比べ心理的なものも含めて圧倒的に障壁が低い。また、R はビッグデータ解析の入門用のみならず実用上も十分耐えうるものとして、HPCI 人材養成プログラムの講習会やアグリバイオインフォマティクス教育研究プログラムの大学院講義などでも積極的に採用されている。本講演では、次の R ハンズオン90分セッション(中級者向けバイオインフォマティクス入門講習会)のイントロを含め、主に医学系向けに R を用いたヒトデータ解析の実例を中心に紹介する予定である。

スーパーコンピュータが実現する大規模メタゲノム機能解析

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石田貴士(東京工業大学 大学院情報理工学研究科 計算工学専攻)
メタゲノム解析は、ヒト体内や土壌、海洋などの環境中に生息する微生物のゲノムを分離培養せずにそのままシークエンスして解析を行うもので、未知の微生物のゲノム情報が得られるだけでなく、その環境中の共生系の理解や環境汚染の監視等に有用であり注目を集めている。16srRNA のような一部の遺伝子領域の情報を利用して環境中に存在する微生物種の存在比率を調べる従来の一般的な解析に対し、近年では次世代シークエンサーによって得られたゲノム全体からの大量配列情報を用いることで、環境中にどのような機能のタンパク質がどの程度存在するかを調べるメタゲノム機能解析が可能となりつつある。しかし、この解析では、遠縁の種のゲノム情報に対する高感度な配列相同性検索という多くの計算 時間を要する処理が必要となり、ボトルネックの一つとなってしまっている。そこで、我々は接尾辞配列を用いた新たなアルゴリズムによってメタゲノム配列相同性検索を BLAST と比較して約 130 倍高速化し、更にハイブリッド並列化などによってスーパーコンピュータ「京」上で 2 万ノード使用時でも良いスケーリングを示す大規模な解析パイプラインを構築した。

がんの進化と腫瘍内不均一性を理解するためのゲノム解析とシミュレーション

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新井田 厚司(東京大学 医科学研究所 ヒトゲノム解析センター)
Cancer results from accumulation of mutation in genomes and evolutionary selection for growth advantage. In the evolutionary process, it is assumed that multiple clones appear and intratumor heterogeneity of cancer genomes is generated. To investigate intratumor heterogeneity in colorectal cancer, we dissected a single colorectal tumor and exome-sequenced their DNA. As a result, we found that founder mutations exist, which are shared by all samples and assumed to appear in the early stage of carcinogenesis. In contrast, progresser mutations not shared by all samples also exist. They are assumed to appear in the early late of carcinogenesis, and contribute to intratumor heterogeneity. Next, to understand mechanisms to generate such extensive intratumor heterogeneity, we simulate tumor growth using an agent simulation model, which assumes a cell as an agent. Moreover, using a supercomputer,we run the simulator with various combinations of parameters in searching for conditions that reproduce our experimental data. Our result suggests that the existence of multiple driver genes, cancer stem cell and microenvironmental selection is critical for heterogeneous tumor evolution. Collectively, our study demonstrated that a combination of genome analysis and simulation would be a powerful tool for studying cancer evolution.

脂肪細胞の遺伝子解析 ―白色脂肪細胞の寒冷刺激による褐色化の機構解明―

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松田秀雄(大阪大学 情報科学研究科 バイオ情報工学専攻)
脂肪細胞組織には、エネルギーを脂肪の形で貯蔵する白色脂肪細胞組織の他に、脂肪を熱産生により消費する褐色脂肪細胞組織が存在することが知られている。褐色脂肪細胞組織は、以前はヒトには新生児期にのみ存在し、成長とともに縮退して消失するとされていたが、近年、PET 検査等でヒト成人にも存在することが明らかになった。さらに、一部の白色脂肪細胞組織は寒冷刺激等で褐色化することが知られていたが、近年の遺伝子解析により、この褐色化した脂肪細胞は褐色脂肪細胞とは異なる種類の細胞であることがわかってきた。この第3の脂肪細胞はベージュ脂肪細胞と呼ばれ、貯蔵された脂肪を熱産生で消費することから、新たな肥満是正の戦略につながるとして注目を集めている。演者は、京大農学研究科 の河田教授と共同で、マウスに寒冷刺激をかけたときの脂肪細胞組織での時系列遺伝子発現プロファイルを取得することで、ベージュ脂肪細胞における褐色化と熱産生を制御する遺伝子ネットワークの解析をスパコン「京」を用いて行ってきた。本講演では、その解析の結果、明らかになった機構について紹介する。

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