メニュー
メニュー

要旨報告

生体分子複合システムを計算する―相互作用は何をもたらすのか―

主催

HPCI戦略プログラム分野1×分野2シンポジウム in 名大

HPCI戦略プログラム 分野1 「予測する生命科学・医療および創薬基盤」
(戦略機関:理化学研究所)

HPCI戦略プログラム 分野2 「新物質・エネルギー創成」計算物質科学イニシティブ
(戦略機関:東大物性研・分子研・東北大金研)

日時

2013年12月17日(火) 10:30~17:25

場所

名古屋大学IB電子情報館 大講義室(名古屋市千種区不老町)

要旨報告

オープニング

太田元規(名古屋大学大学院情報学研究科・教授)
理解とは、頭の中で思い描いたことが、現実と結びつくことで確証される。コンピュータが速くなれば計算結果と複雑な現実が結びつく可能性を感じるが、それをずっと続けていけば多くの生命現象が理解されるのだろうか。まずは分子間の相互作用が生命の協同現象を誘起するのかを考えたい。ハイパフォーマンス・コンピューティングにより、データ量や計算量は増えるが、それが生命現象の質的な理解にどう繋がるのかを考えていきたい、とシンポジウムの主旨が述べられた。

1. CARMILが誘起するアクチンキャッピングタンパク質の動的構造変化

ota[1]

太田元規(名古屋大学大学院情報学研究科・教授)
キャッピングタンパク質(CP)はアクチンフィラメントの末端に結合し、伸長を停止させる。CARMILはCPとアクチンの結合をアロステリックに阻害する。また、アクチンに結合したCPを引きはがすこともできる。CARMILのCP阻害に関する機能発現メカニズムを解明するために、CP、CP/CARMIL複合体などの分子動力学計算を行った。軌道スナップショットからMotionTreeを書き、剛体運動の分類を行った結果、CARMILはCPの空隙に結合し、空隙を利用したドメイン運動を効率的に抑制することがわかった。CARMILはCPの動的構造を変化させることで、阻害を行っていると考えている。

2. 巨大生体超分子の構造転移制御メカニズム

kitao[1]

北尾彰朗(東京大学分子細胞生物学研究所・准教授)
タンパク質分子やその集合体である巨大生体超分子が立体構造を変化させながら機能を発揮する仕組みについて紹介がなされた。京コンピュータなどの超並列計算機で高効率な計算を実行できる新しいシミュレーション法PaCS-MDを紹介し、細菌の運動を制御するべん毛と、ウィルスが細菌に感染するために使うタンパク質複合体が働くメカニズムを中心に解説された。

3. 超分子モデリングパイプラインの構築

shirai[1]

白井剛(長浜バイオ大学コンピュータバイオサイエンス学科・教授)
細胞内で働く巨大分子(超分子)の構造を実験的に求める事は、まだまだ難しい。ところが、これまで蓄積されたタンパク質の構造から得られる知識を、計算機の中で「積み木」の様につなぎあわせると、ある程度の超分子模型を組み立てられることをDNAポリメラーゼ-PCNA-DNAなどの超分子複合体を例に示された。

4. 生命科学者に開かれたSCLS計算機システム

kamada[1]

鎌田知佐(理化学研究所HPCI計算科学推進プログラム・チーム員)
スーパーコンピュータ「京」を中心としたHPCI、戦略プログラム分野1及び分野1で運用しているSCLS計算機システムの紹介がなされた。

5. タンパク質における緩和と反応の統計的アプローチ

nagaoka[1]

長岡正隆(名古屋大学大学院情報学研究科・教授)
凝縮系化学反応の理解に向けた統計的アプローチとして、自由エネルギー勾配(FEG)法とアンサンブル分子動力学(EMD)法の概要と適用例が紹介された。特にEMD法の成功例として、ヘモグロビン(Hb)のアロステリック機構の微視的理解に向けて、ミオグロビン(Mb)残基への余剰熱エネルギー緩和過程とHbサブユニットへの酸素分子の浸入経路を特定した研究が動画を交えて紹介された。

6. 生体膜の形成する形態の多様性

noguchi[1]

野口博司(東京大学物性研究所・准教授))
生体膜におけるエントロピー相互作用について講演がなされた。まず、隣接膜をつなげるリガンドーレセプター結合サイト間に、膜のゆらぎを介した引力相互作用について説明し、この引力が凝集を形成するほど強くなる条件が示された。また、生体膜にグラフトした高分子が、マイクロサイズのドメインを安定化することについても明らかにされた。

7. 膜タンパク質の構造予測と分子シミュレーション

sugita[1]

杉田有治(理化学研究所杉田理論分子科学研究室・主任研究員)
細胞膜中に存在する膜蛋白質の立体構造を予測する計算手法が複数提案された。膜蛋白質の構造を予測するためには、生体膜の効果を誘電体として近似したImplicit膜を用いた方法が有効であることが示された。さらに、脂質分子の寄与を直接観察するためには新しい拡張アンサンブル法であるSurface-tension REMD法や粗視化モデルを組み合わせたマルチスケールモデルが役立つことが示された。

8. ヒストンバリアントとヌクレオソーム構造の安定性

kono[1]

河野秀俊
(日本原子力研究開発機構分子シミュレーション研究グループ・グループリーダー)
ヌクレオソームは、ヒストンタンパク質を芯にし、その周りに約2回DNAが巻き付いた構造をしている。ゲノム解析により、ヌクレオソームを構成するヒストンタンパク質には多くのバリアントが存在していることがわかってきている。講演では、染色体分配時に作られる動原体に特異的に存在するヌクレオソームは常時存在するヌクレオソームに比べて巻き付いたDNAが不安定であること、それが2つのアミノ酸残基の違いから生じていることが示された。このヌクレオソームの不安定性が動原体の構造基盤を提供しているのではないか、ということが示された。

9. 分子機械と天然変性タンパク質に通底する静電アロステリック機構

takano[1]

高野光則(早稲田大学大学院先進理工学研究科・教授)
生体分子複合体システムにおいて時々刻々と変化する分子内および分子間の相互作用は生体機能の源である。生体機能のなかでも「運動」と「情報」の制御は重要性が高い。これらに関与する二つの系(アクチン―ミオシン系、および転写因子―補助活性化因子系)のMD計算を通じ、システムの動作機構には「静電アロステリック機構」という生体分子の柔軟さを生かした巧妙な「仕掛け」が深く関わっていることが示された。

10. アクトミオシンモーターの動作機構

sasai[1]

笹井理生(名古屋大学大学院工学研究科・教授)
アクチンとミオシンの複合分子系(アクトミオシン)は筋肉における力の発生源であるが、その動作原理は未解明である。この講演では、アクトミオシンのシミュレーションを行い、ミオシンはアクチンフィラメント上を一方向に滑って力を発生することを示して、揺らぎながら動く分子モーターの姿を浮き彫りにした。アクトミオシンの柔軟な動作は、筋肉や心臓の働きにとっても重要な意味を持つかもしれないことが示された。

クロージング

笹井理生(名古屋大学大学院工学研究科・教授)
分野1、分野2とそれぞれバックグラウンドが異なる研究者が集まり意見交換した。対象は生体分子としているが、考え方はバラエティ豊かである。この多様なスタイルを味わうこと、そして今日集まっていただいたことは、意義があったのではないかと締めくくられた。

pagetopへ