OpenUpSPtalk

  本課題では、従来の研究では行われなかったレベルで、様々な細胞の集合体としての組織・器官の機能を階層統合シミュレーションにより再現し、病態の予測さらには治療に役立てることを目指した。例えば、脳神経-筋骨格系に関しては、世界最大級の細胞数の脳神経系シミュレーションに成功したNESTと、筋繊維の集合体として筋肉全体の振る舞いを再現するマルチスケール骨格筋シミュレータHi-MUSCLEさらには全身筋骨格シミュレータK-Bodyを統合し、パーキンソン病における振戦・固縮の違い、さらには姿勢保持障害を再現することを目指して研究を進めてきた。現在までの成果として、猿を用いた動物実験でも観測されているドーパミンの欠損から生じる大脳基底核でのβバンド(15Hz程度)の振動を再現することに成功し、そのシグナルが視床で周波数は半分に変え、大脳皮質、脊髄から筋繊維へと伝わり、手の震えに繋がることをシミュレートした。(本紙Zoom in P.9 参照)   循環器系のシミュレーションに関しては、マルチスケール・マルチフィジックス心臓シミュレータUT-Heartの成果が著しい。サルコメアレベルから心筋細胞、心臓全体までの3階層統合シミュレーションに世界で初めて成功し、計算科学の分野に大きなインパクトを与えた。得られた成果により作成された動画は、CGの分野で権威ある国際学会SIGGRAPH(2015)において、BEST VISUALIZATION ORSIMULATION賞に選ばれた。現時点で、この動画のYouTube英語版(図)の視聴者数は25万件を超え、日本より世界で有名な心臓シミュレーションとなっている。また、このシミュレータはすでに臨床データを用いた病態予測の段階に入っており、小児先天性心疾患の手術後の予測が精度よく行えることなどが臨床結果との比較で示されている。血栓症のシミュレーションについては、本プロジェクトを介して、シミュレーションとフローチャンバー実験の統合的解析による、薬効評価の新たな解析法を提案し、抗血小板薬の働きに対する新たな知見が得られている。


図:YouTubeで25万回以上視聴されているUT-Heartの動画

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Open Up Special Talk 4課題の5年間の取り組みと成果
課題1  細胞内分子ダイナミクスのシミュレーション
課題2  創薬応用シミュレーション
課題3  予測医療に向けた階層統合シミュレーション
課題4  大規模生命データ解析