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  分子動力学シミュレーションはタンパク質や核酸などの生体高分子の分子運動(ダイナミクス)と機能構造の関係を明らかにする手法として良く使われている。従来の計算が水中あるいは脂質二重膜中でのシミュレーションに限定されていたのに対して、この課題では現実的な細胞環境中での分子ダイナミクス(細胞内分子ダイナミクス)を調べることを目的とした。研究期間の初期には具体的な計算対象があいまいであるという批判をうけ研究内容を精査した結果、「細胞内環境を考慮した信号伝達経路のモデリング」と「ヌクレオソーム、クロマチンの機能発現機構」という2つの研究テーマに集約した。この課題で本質的な役割を果たしたのは「マルチスケールシミュレーション」という研究手法である。QM/MM(量子力学/分子力学)、全原子分子動力学、粗視化分子動力学、一分子粒度計算の専門家が参加し、異なる解像度の分子モデルを用いることで分子から細胞スケールに至る生命現象を解析することに成功した。特に前者のテーマにおいては、バクテリア細胞質の 全原子分子動力学計算、EGF信号伝達経路の一分子粒度計算、細胞環境を考慮したQM/MM計算など世界に例のない大規模シミュレーションが「京」を用いて行われた。また、後者では多数のレプリカを用いたヌクレオソームの自由エネルギー計算、SAXS(Small Angle X-ray Scattering)と分子動力学の連携(MD/SAXSやCGMD/SAXS )によるトリヌクレオソームのモデリング、粗視化分子動力学による大規模なクロマチンモデリングなどに成功した。ようやくここに来て当初目的とした「細胞内分子ダイナミクス」研究の形が見えてきたので、今後さらに実験研究者とのタイトな共同研究を行いながら研究を継続していきたいと考えている。

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図:「細胞内環境を考慮した信号伝達経路のモデリング」と「ヌクレオソーム、クロマチンの機能発現機構」

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Open Up Special Talk 4課題の5年間の取り組みと成果
課題1  細胞内分子ダイナミクスのシミュレーション
課題2  創薬応用シミュレーション
課題3  予測医療に向けた階層統合シミュレーション
課題4  大規模生命データ解析