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QM/MM方法で探る細胞内混雑環境での化学反応

kamiya
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MDシミュレーションによって予測されたRad51二量体の構造

図1:理想的な水中に浮かんだタンパク質(Ras/GAP複合体)(赤い点は水分子)

Rad51フィラメント(緑とシアン)の溝にSwi5-Sfr1の溶液構造(マゼンタ)が結合したモデル

図2:模式的細胞環境にあるRas/GAP複合体(水分子は省略。灰は別のタンパク質)

 生物の体内では、種々の化学反応が絶えず起こっています。生命現象を理解し、さらにその先をめざす上で、そのような化学反応の理解は欠かせないものです。私たちの用いるQM/MM法(量子化学と古典物理学を組み合わせることで、複雑な系での化学反応を高精度に取り扱う方法)はまさに生体系のような複雑な環境における化学反応を理解する上で、非常に大事な方法です。2013年のKarplus、Levitt、Warshel博士らによるノーベル化学賞の受賞はまさにこのQM/MM法の開発を讃えるものであることからも、その重要性や今後への期待が感じられます。

 さて、このQM/MM法は化学反応を扱う上で優れた方法ではありますが、非常に高い計算能力を必要とするという問題があります。近年発達したコンピュータによって、図1に示すようなタンパク質が一人ぼっちで水に浮かんでいる状況は取り扱えるようになってきていますが、実際の生体内での化学反応を取り扱う上では、まだまだ不十分です。例えば、図2に示すように、実際の生物の細胞内は他のタンパク質などによって非常に込み入っていて、図1に示すような理想的過ぎる環境とはだいぶ異なりますが、これまでのQM/MM計算では、そのような混雑した細胞環境は全く考慮されていません。また、生物にとって温度はとても大事で繊細な要素であって、本来タンパク質自身も熱ゆらぎによってふらふらとしているはずですが、そのような影響も、実は適切に取り扱うことはできていませんでした。しかし、「京」をはじめとした大規模な計算機によって、図2に示すような環境でのQM/MM計算も可能となり、温度についても近年私たちの研究室で開発された方法(QM/MM RWFE SCF法)などである程度は効率的に取り扱えるようになってきました。図2で示すような、非常に複雑な環境によってものごとがどのように変るのかについては、正直なところまだ全然と言ってよいほど分からないですし、想像することすら容易ではありませんが、ひとまず、はそれを調べることができるようにはなってきました。

 今、私たちはRas/GAP複合体という系においてGTP(グアノシン三リン酸; 生物内で機能調整によく用いられている)がGDP(グアノシン二リン酸)に分解する反応を、図2で示したような環境で取り扱っています。このRasとGAPというタンパク質は、ガン化とも関連があるタンパク質でもあって、私たちの生命にも深く関わっています。まだまだ計算は始まったばかりで分らないことだらけですが、より現実的な環境(温度や周囲の混雑)がどのような働きをしているのか、またそれによってものごとがどれほど影響を受けるのか、そのようなことが少しずつ分ってくるようになるでしょう。

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