zoomin03

がんの進化シミュレーションによる
腫瘍内不均一性生成原理の探索

hayashi
Profile
MAPK系カスケードの信号伝達経路

図1:がんの進化のシミュレーションの可視化。 (A) 成長するがん (B) 増殖曲線 (C)遺伝子変異パターン。

MAPK系カスケードの信号伝達経路

図2:がんの進化ミュレーション(A,B)を呼び大腸がんのゲノム解析 (C,D) で得られた不均一性の高い遺伝子変異パターン。

 がんは、遺伝子が変異することで細胞が異常増殖することによって生み出されます。患者さんごとにがんの原因となる遺伝子変異は異なることが知られていますが、さらに一人の患者さんのがんの中にも異なる組み合わせの遺伝子変異を持つ細胞集団が存在することが明らかになっています。この現象は腫瘍内不均一性と呼ばれ、がんの治療抵抗性の一因であると考えられています。例えば、一腫瘍内に多数の治療が効く細胞(A)と少数の治療が効かない細胞 (B)が存在する場合、治療を始めるとAが減少することにより腫瘍は一時的に小さくなりますが、やがてBが増殖することにより、がんは再発に至ります。このように腫瘍内不均一性を生み出す原理の解明は、臨床的にも重要な問題です。

 私たちは、はじめに九州大学病院別府病院との連携研究により、大腸がんの腫瘍不均一性を調べました。1つの大腸がんの複数の部位からDNAをサンプリングして、次世代シークエンサーを用いてゲノム解析を行った結果、各部位に共通する遺伝子変異が認められる一方で、各部位に固有な遺伝子変異が存在し、高い不均一性を生み出していることが明らかになりました。

 次に、私たちはこのような腫瘍内不均一性を生み出す原理を解明するために、がんの進化シミュレーションモデル、Branching evolutionary Process (BEP) Modelを構築しました。細胞の中の複数個の遺伝子にランダムに変異を入れながら増殖させていくと、増殖速度を増加させるドライバー変異を蓄積する細胞が選択され、増殖能力の高い細胞集団に進化します。このような進化過程で、条件によっては異なる変異を有する細胞集団に分岐し、不均一性を獲得します。

 私たちは「京」を利用して、さまざまな異なる条件でがんの進化シミュレーションを行うことにより、高い不均一性が生み出される条件の網羅的探索を行いました。その結果、高い遺伝子変異率、がん幹細胞の存在を仮定すると、上記の大腸がんの実験結果に見られるような、高い不均一性を有する遺伝子変異パターンが再現できることを見いだしました。さらに私たちのシミュレーション結果から、ドライバー遺伝子は全てのがん細胞に共有されている一方で、不均一性を生み出している変異の大部分は、細胞の増殖速度に影響を与えない中立変異であることが示唆されました。

 以上、本研究により腫瘍内不均一性を生み出している進化原理の一端が、大腸がんのゲノム解析と「京」を用いたがんの進化シミュレーションにより明らかになりました。今後、本研究に基づいて、がんの治療抵抗性を克服するための治療戦略の確立を試みる予定です。

zoomin

ZOOM IN 課題1 QM/MM方法で探る細胞内混雑環境での化学反応

ZOOM IN 課題3 血栓形成の初期過程における血小板凝集のマルチスケールシミュレーション

        

pegetop

OpenupSPTALK OpenupSPTALK OpenupSPTALK OpenupSPTALK OpenupSPTALK