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パーキンソン病の症状再現に向けた神経系
-筋骨格系の統合シミュレーション

  私たちが意識的に身体を動かそうとする場合、脳で作られた運動指令は運動皮質から神経線維を伝って脊髄へと送られます。脊髄において、その運動指令は筋肉や皮膚などからのフィードバック情報ととも に統合・調整され、筋肉につながる運動ニューロンへと伝えられます。運動ニューロンが活動すると筋肉を構成する筋線維が収縮し、最終的に、関節運動として動きが生じます。
  この脳神経系から筋骨格系への流れの中で何らかの不具合が生じると、運動機能に障害が現れることがあります。パーキンソン病は、運動の調節を司る脳の大脳基底核の神経細胞が正常に働かなくなり、ドーパミンと呼ばれる神経伝達物質が減少することが原因の一つと考えられている脳神経疾患です。パーキンソン病患者には、安静時のふるえ(振戦)、筋のこわばり(筋固縮)、動作緩慢、姿勢反射障害など、様々な運動症状が現れますが、その発生メカ ニズムは解明されていません。そこで私たちのプロジェクトでは、コンピュータ・シミュレーションを用いて、このような脳神経疾患の運動機能障害の予測やその発生メカニズムの解明およびその治療支援を目指した、ヒト全身の神経‒筋‒骨格系の統合シ ミュレータを開発しています。
  統合シミュレータは、沖縄科学技術大学院大学の銅谷グループ、東京大学の中村研究室・高木研究室がそれぞれ開発した、大脳基底核・視床・運動皮質回路からなる脳神経系シミュレータ、脳からの運動指令と筋肉からのフィードバック情報をもとに、運動ニューロンの活動を計算する脊髄神経系シミュレータ、運動ニューロンの活動から筋骨格系の運動を計算する筋骨格系運動シミュレータを統合し、全身の筋骨格系に拡張したシミュレータです(図1)。
  図2はパーキンソン病状態の脳神経モデルとヒト上腕の筋骨格モデルによる統合シミュレーションの一例です。それぞれ、脳の運動皮質・視床・大脳基底核、脊髄の運動ニューロンの神経活動と肘関節の関 節角を時系列で表しています。各神経細胞の上側は上腕二頭筋、下側は上腕三頭筋に投射する神経細胞です。大脳基底核では、健常者では現れないパーキンソン病特有の異常な神経細胞の活動が再現されています。また、視床の神経細胞では、上腕二頭筋と上腕三頭筋において、パーキンソン病患者のふるえの周波数と同程度(4‐6Hz)の交互の神経活動が再現されています。脳神経系シミュレータからの出力は、運動皮質の錐体路細胞の活動として脊髄へ送られ、脊髄神経系シミュレータで運動ニューロンの活動が計算されます。筋骨格系シミュレータでは、運動ニューロンの活動から収縮力が計算され、肘関節にふるえのような運動が発生しています。
  統合シミュレータの開発により、脳神経系の活動から筋骨格系の運動まで、一連の人体運動のシミュレーションが可能になりました。今後は本シミュレータを用いて、パーキンソン病患者のふるえや筋のこわばりなどの運動症状の再現とその発生メカニズムの解明、将来的には治療法の開発を目指して研究を進めていきます。

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