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パーキンソン病の症状の発生機構解明をめざした
脳神経系モデルの開発

igarashi
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MAPK系カスケードの信号伝達経路

図:左、大脳基底核、視床、大脳皮質の結合関係の模式図。右、構築中の大脳皮質―視床の神経回路モデルの3次元図。

 我々はパーキンソン病で現われる症状の発生機構の解明と効果的な治療法の探究のため、「京」を用いた脳のシミュレーション研究を行っています。パーキンソン病は脳神経の病気で、動作の遅れ、体の震え、筋肉のこわばり、姿勢の保持の困難など、主に運動に関するさまざまな症状があらわれます。パーキンソン病は神経変性疾患としてはアルツハイマー病についで人口が多く、世界でも数百万人の患者がいるといわれています。

 パーキンソン病の原因は脳の黒質緻密部に存在するドーパミン産生細胞の減少で、ミトコンドリア異常や活性酸素による影響であることが示唆されています。ドーパミンの減少により、大脳基底核の神経細胞は約8-14Hzの強い病的な同期的神経活動を発生します。大脳基底核は視床、大脳皮質と、ループ状に「大脳基底核→視床→大脳皮質→大脳基底核」と結合し、この回路全体で随意運動などの情報処理を行っています。パーキンソン病での大脳基底核の病的な同期的活動は、このループ状の回路全体に影響を及ぼし、正常な情報処理を阻害し、さまざまな症状の原因となっていると考えられています。しかし、実際に大脳基底核、視床、大脳皮質の各部分がどのように影響し合い、パーキンソン病のさまざまな症状が発生するのかについてはよく分かっていません。その解明を困難にしている要因として、生体から測定できる神経細胞の数や脳の範囲が非常に限られていること、複雑に結合する神経細胞間の相互作用の測定が難しいことなどがあります。

 脳のシミュレーションでは、全ての神経細胞の活動や相互作用を記録し、さまざまな状態で何度でも調べることができます。そこで、我々は「京」の膨大な演算能力を用いて、大脳基底核、視床、大脳皮質からなる神経回路を丸ごとシミュレーションし、それらの相互作用を調べ、深部脳刺激療法などに関するより効果的な治療方法を調べることをめざしています。

 現在、大脳基底核、視床、大脳皮質の各脳部位のモデル開発に取り組んでいます。大脳基底核のモデル開発では、異常な同期的神経活動の再現に焦点を置いて進めており、視床下核と淡蒼球外節の神経細胞やシナプスのドーパミン減少時の性質を模擬することで、パーキンソン病で発生する異常な振動現象が再現されています。視床と大脳皮質のモデル開発では、パーキンソン病で見られる体の震えの機構解明に焦点をあてて進めています。体の震えは視床や大脳皮質の脳波(約10Hz)の半分のサイクルで連動して発生することが知られており、その脳波を再現する視床の神経回路モデルの開発と、震えで必要な体の動きを表現する大脳皮質モデルの構築を進めています。これら、大脳基底核、視床、大脳皮質のモデルをつないだ、全体のモデルのテストも並行して行っており、最終的には脊髄と筋骨格モデルを含む、脳への感覚信号のフィードバックがある全身モデルにおける症状の発生機構の評価を行いたいと考えています。

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