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粗視化シミュレーション:
CafeMolで信号伝達経路の分子機構を探る

kanada
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MAPK系カスケードの信号伝達経路

図1:MAPK系カスケードの信号伝達経路

CafeMolによるMEK1とERK2の粗視化シミュレーション

図2:CafeMolによるMEK1とERK2の粗視化シミュレーション

 細胞が周囲の環境に適応するためには、外から与えられた信号を核内まで伝達、増幅させて遺伝子発現やタンパク質の活性を変化させる機構:シグナル伝達経路が必要です。我々のプロジェクトでは、シグナル伝達経路の代表的モデルの1つであるMAPK(mitogen-activated protein kinase)系カスケードに焦点を当て研究を行っています。

 具体的に哺乳類のMAPKカスケード(経路の1つ)では図1のように外からの刺激を契機にRas、Raf(MAPKKK)が活性化し、さらにMEK1(MAPKK)、ERK2(MAPK)へと次々に上流のタンパク質が下流のタンパク質をリン酸化することで活性化して、信号が核内まで伝達されます。このカスケードは、細胞運命(増殖、分化、アポトーシス等)の決定のみならず、細胞のがん化とも強い関連を持っていることが知られていますので、伝達における活性化機構の解明は医学的な見地からも強く望まれます。しかし、残念ながらその分子機構の詳細は未だに不明です。

 機構の解明が進んでいない理由の1つに、リン酸化の際に上流のタンパク質(例えばMEK1)が下流のタンパク質(例えばERK2)にどのように近づき、複合体を形成するのか、原子レベルの構造が実験的手法だけでは決定できていないことが挙げられます。そこで我々は、既に構造が解けているMEK1とEKR2の単体構造を基に、MEK1-ERK2の複合体構造及びその形成ダイナミクスを理論的手法を用いて予測することを目的に研究をしています。

 その際、我々は研究チームで開発した粗視化分子動力学シミュレーターCafeMolを適用しています。CafeMolでは、タンパク質を構成する各アミノ酸を1つのビーズとして捉えてそのダイナミクスをシミュレーションするため、全原子分子動力学法による計算と比較して計算コストが格段に低く抑えられます。(「京」を本格的に活用すれば、例えばクロマチンファイバーのような巨大な系であってもミリ秒オーダーの物理的事象を再現することが可能です。)また、ビーズ間の相互作用(力場)についても我々が独自に開発したAICG(Atomic interaction based coarse grained)モデルを利用することで、従来の粗視化シミュレーションよりも配列や2次構造依存性を考慮した現実的な計算が可能となります。

 実際、CafeMolによる粗視化シミュレーションで推定した複合体構造が図2です。この構造を既存のドッキングサーバー(ClusPro等)により推定した構造と比較したところ、かなりよく一致することが分かりました。ただし、CafeMolはドッキングサーバーでは解明できない結合に至る時間発展も調査することができます。今後はその利点を活かし、足場タンパク質(KSR)の存在や細胞内の混み合い環境が複合体形成のダイナミクスに及ぼす影響を調査して、シグナル伝達における分子機構の謎に迫りたいと考えています。

注釈:
※ H. Kenzaki et al., J. Chem. Theory Comput., 7, pp 1979-1989 (2011) [http://www.cafemol.org/]

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