AFTER SPECIAL TALK
参加者 shimizu

第一線で活躍する方からお話を伺い、計算実験の威力を改めて感じました。分子シミュレーションは今や、”細胞全体を、分子レベルで隅々まで可視化”することを目指して進んでいます。マルチスケールシミュレーションの進歩が、私達にこうしたビジョンをもたらしました。全原子計算や粗視化計算等、異なるスケールのシミュレーション結果を組み合わせるためには、各階層でより長時間・大きな系での計算が必要です。これを可能にしたHPCの威力には、ただ驚かされるばかりです。よりマクロな現象を、よりミクロな分子機構から解明する分子シミュレーションの発展に、私も貢献したいと考えています。

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今回、初めて座談会に参加させて頂きました。この座談会では、生命の現象の理解をするために、計算機を使用してアプローチしている様々な人の意見を聞くことが出来ました。その中でも印象的だったのが、その人たちのアプローチが「京」を通して繋がっていることでした。ミクロなレベルでは量子化学計算からマクロなレベルでは細胞内のシミュレーションまで幅広いアプローチがあります。各段階の理解も重要ですが、それらの異なる階層間の関わりも同じく重要な問題であると思います。「京」が出るまでは、計算資源の問題から、階層間の関わりを十分に検証できませんでしたが、「京」が登場したことにより、より一層、共同研究の幅を広げたのだと、この座談会で感じました。

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対談されていた研究者の方々のアプローチの方法は実に多様だったのですが、各々の研究対象スケールに合わせたモデル構築のアプローチが大勢の賛同を得る、というレベルまで確立していないためのように感じられました。 それはおそらく、計算モデルをどう組み上げれば現実を上手く再現するかが手探りの段階にあり、各々の研究者が知恵を絞っている状況にあるからでしょう。計算機の能力上、精度・解像度と扱う時間スケールをトレードオフせざるを得ないため、自分が見たいスケールに合わせて近似や相互作用の取捨選択をせねばなりませんから。ですが「京」のような計算機を大勢が使えるようになったことでこの分野に参入する研究者が増え、モデル構築に関する研究が蓄積することで、モデル構築の困難の多くは解決できるようになるのではないかと希望を持っています。

【清水】 実験とのコラボレーションについてのお話がありました。大規模なシミュレーションができるようになって、実験の人たちにとっても分かりやすい成果が出せるようになったこともあると思いますが、今後、実験とのコラボレーションはどのように展開していくと思われますか。

岩本  今、私たちがやっているのは、タンパク質1分子粒度でのシミュレーションですが、このシミュレーションは、1分子計測実験と相性がよいため、シミュレーションと実験の比較がやりやすい分野ではあると思います。ただ、このシミュレーション方法では、1細胞レベルのシミュレーションが容易でないため、実験との比較はまだ難しいところがあります。

【清水】 今後、実験とのコラボレーションに関して、新しい展開はどういったものが考えられますか。

岩本  計算の精度は高まっていますが、それを実験的に検証することが難しいので、大きな計算機が使えるようになったからといって、すぐに新しいコラボレーションができるようになるかというと、それは難しいと私は思います。

【小野】 みなさんが望むHPCの性能というのは、単独のレプリカがたくさん流せるかが大多数で、「京」は、そういうことに、ちゃんと応えているマシンなのですか。

 たくさんのレプリカを走らせるのに適した構造かということですか。私は並列でたくさんのジョブを流しているわけではないので、「京」で、それをやったときの使用感は分かりませんが、膨大なCPUコアがあるのでマシンとしては適しているはずです。

【小野】 石田さんのご自分のところにあるマシンで1ノード・1コアで走らせた計算と、もし「京」で1ノード・1コアで走らせたとしたら、計算速度はどちらの方が出ますか。

石田  1ノード当たりであれば、恐らく「京」はほとんど魅力を持たないでしょう。大規模で並列計算ができるというのが、「京」のウリですから。やっぱりたくさんのノードで計算しないとね。

【小野】 優さんにお聞きします。メインプログラムを、「京」で走らせることは完了していると思いますが、次の段階の解析プログラムも「京」で流す必要があるのですか。

 いいえ。解析のプログラムは「京」では流していません。主に、研究室内のPCクラスターを使って解析しています。

【小野】 それは優さんの研究室が「京」の近くにあって、データ転送が簡単だからということですか。離れていると、データ転送に時間がかかってしまうのではないですか。

 データ転送も、例えば1週間も2週間も待たなければいけないというわけではないと思います。後はストレージさえ用意しておけば、そこに全部入れて、データを逐次取り出して解析ができます。

神谷  転送って、それほど遅くないですよね。

 そんなに問題にならないはずです。

【小野】 最後にもう1点、この先もサブプログラムを「京」で走らせることはないのですか。

 そうですね。解析自体の計算はそれほど重くないので、今のところは「京」を使うほどではないですね。

【小野】 例えば、タンパク質間の相対的な位置などを網羅的に調べたいといった場合もですか。

 例えば、タンパク質重心間の距離行列みたいなものも計算していますが、「京」で計算するほどではないですね。ただし、相互作用力やエネルギーを全部のタンパク質ペアについて計算しようとすると、すでにそれ自体がシミュレーションと同じくらい重たい計算なので、そのような解析は「京」でやる必要があると思います。

【齋藤】 優さんが使っておられる「GENESIS」で、分子の種類やノードはどうやって決めているのですか。

 シミュレーションに必要な細胞環境モデルは、私自身ではなく、理研・杉田チームの研究員(1)とアメリカの共同研究者(2)が作成しました。モデルにした系は、マイコプラズマの細胞質です。代謝ネットワークに関わるタンパク質を、細胞内の濃度に近い数量で取り込んでいます。膜、または膜タンパク質とDNA以外の生体分子は、ほとんどこのモデル系に含まれていますが、それをどうやって決めたかというと、マイコプラズマのゲノムは全部分かっているので、タンパク質の種類や代謝ネットワークがほぼ決定できます。また、プロテオーム解析やメタボローム解析の実験データがありますので、どんな分子がどれくらいの濃度で存在するかの見積もりもできます。このように、さまざまな実験データを総合的に用いて決めています。こうしてできた細胞環境の全原子モデルを、杉田チームが開発した分子動力学シミュレーションプログラム「GENESIS」と「京」を使って動かしています。その際のノード数は先ほどお話ししたとおり、何度か試行錯誤して最適なノード数を決めました。

  (1) 森貴治研究員(理研・杉田理論分子科学研究室), 原田隆平研究員(現・筑波大)
  (2) Michael Feig教授 (ミシガン州立大学)

【齋藤】 岩本さんは、分子内のネットワークを計算されているとのことですが、将来的に細胞間のネットワークの計算も可能になるのでしょうか。

岩本  細胞間も、基本的には可能になると思います。ただ、細胞間のやり取りについては、低分子なりを介してやり取りをしているのですが、詳細なメカニズムは分かっていません。そういったことが分かってくれば、例えば、複数の細胞を置いて、細胞間のコミュニケーションを含めることで、細胞集団としての振る舞いを計算することは可能になると思います。

        

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