BioSupercomputing Newsletter Vol.7

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研究報告
ISLiM研究開発ソフトウェアの
ソース・コード公開に向けた活動

田村 栄悦

理化学研究所 次世代計算科学研究開発プログラム
田村 栄悦

1. 世界にも類のないソフトウェア研究開発プロジェクト

 ISLiMプロジェクトでは、「京」の能力が発揮できるソフトウェアを開発し、優れた学術論文を発表すると共に、「京」で利用できるようにすることが目標とされています。
 ISLiMが研究開発したソフトウェアの特長は、分子スケールから全身スケールまで、そしてシミューレーションからデータ解析までを約30個のソフトウェアで包括的に構成し、京をターゲットにそれらが高度にチューニングされていることです。ライフサイエンス/ヘルスケア分野でこのように包括的にソフトウェアを構築したのは世界でも類がなく、日本発のソフトウェア資産として研究用だけでなく教育用にも高い利用価値をもたらします。

2. ソース・コード公開にむけての活動

 2010年後半から当プロジェクトでは、「次世代スパコンの創薬産業利用促進研究会」と協力して、ソフトウェアの完成後の利用を念頭に国内の医薬品産業界と情報交流を進めてきました。その議論の中で、このような先進的なソフトウェアを公開する場合は、利用実績も豊富で迅速なサポート体制を提供できる市販ソフトのようなバイナリー・コードを提供するのではなく、利用者が自分でプログラムのソース・コードを確認し修正できるソース・コード公開の重要性が再認識されました。また「京」版だけでなく、企業で一般的に使われている「クラスター・システム版」のニーズも再確認しました。

ソフトウェア開発責任者会議で目標推進

 ソース・コード公開にあたっては、まずソフトウェア開発者がソース・コード公開の意義、公開に必要なプロセスなどについて具体的に理解し、公開にあたっての疑問点・懸念を払拭することが重要です。ISLiMでは、ソフトウェア開発責任者会議を新設し、趣旨の説明と議論を2011年11月9日、2012年2月21日、同7月23日の三回開催するとともに、ソフトウェアの知的所有権に詳しい本間高弘電気通信大学産学官連携センター特任教授と、アンダーソン・毛利・友常法律事務所重森一輝弁理士から貴重なアドバイスをいただいています。公開のための標準プロセスをプログラム開発責任者がわかるようにプロジェクト推進サイドから「ISLiM開発ソフトウェア公開準備のフローチャート」として提供し、進捗状況を図1の形で共有しています。

ダウンロード・サイトから順に公開

 ソース・コードを学界のみならず産業界にも広く利用していただくために、2011年にダウンロード・サイト (http://www.islim.org/islimdl_j.html)を新設し、図2に示すように準備が整ったソフトウェアから順に公開してきました。ソフトウェア開発責任者会議で共有している目標は、2012年4月に全体の50%のソフトウェアを公開し、プロジェクト終了半年前の2012年10月に100%のソフトウェア公開です。その後の半年で、成果報告会、講習会などの普及活動をする予定です。

3. ソース・コード公開の現状と今後の課題

 2006年に研究開発に着手したときの34個の独立したソフトウェアも、いくつかは開発最終段階で一つのソフトウェアに統合されるなどし、最終的には30個程度になる予定です。これらの最新の公開状況はダウンロード・サイトに示されていますのでご覧ください。「京」版と「クラスター・システム版」はコンパイラーの指定等で切り替えられるようになっています。
 多くの資源を投入して6年間研究開発してきた貴重な公開ソフトウェア資産ですが、プロジェクト終了後にどういう形で展開していくかを検討し、効果的に次へとバトンタッチしていくことが、今後の課題として残されています。

進捗状況の共有

図1:進捗状況の共有

ダウンロード・サイト (http://www.islim.org/islim-dl_j.html)の一部

図2:ダウンロード・サイト (http://www.islim.org/islim-dl_j.html)の一部

BioSupercomputing Newsletter Vol.7

SPECIAL INTERVIEW
「京」開発担当者に聞く今後のスパコン戦略とエクサスケールに向けた取り組み
富士通株式会社 テクニカルコンピューティングソリューション事業本部
エグゼクティブ・アーキテクト 奥田 基
「京」への展開で、実利用に向けた最適化とさらなる規模の拡張を進める大規模仮想ライブラリ
東京大学大学院工学系研究科 化学システム工学専攻 教授 船津 公人
研究報告
水の誘電率計算から得られる古くて新しい問題
大阪大学蛋白質研究所 中村 春木(分子スケールWG)
大規模並列計算用流体・構造連成解析プログラムの開発
理化学研究所 情報基盤センター 杉山 和靖(臓器全身スケールWG)
スーパーコンピュータを用いた大規模遺伝子ネットワーク推定ソフトウェア SiGN
東京大学大学院情報理工学系研究科 玉田 嘉紀(データ解析融合WG)
ISLiM研究開発ソフトウェアのソース・コード公開に向けた活動
理化学研究所 次世代計算科学研究開発プログラム 田村 栄悦
SPECIAL INTERVIEW
「京」を用いた大規模シミュレーションによって細胞内分子ダイナミクスの理解と予測を実現する
理化学研究所 基幹研究所 杉田理論分子科学研究室 主任研究員 杉田 有治(課題1 代表)
日本の優れたコンピュータ技術を活かして革新的な分子動力学創薬に挑戦
東京大学 先端科学技術研究センター 特任教授 藤谷 秀章(課題2 代表)
報告
大学の新入生に行った計算生命科学の講義
理化学研究所 HPCI計算生命科学推進プログラム 鎌田 知佐
体制
計算科学技術推進体制
イベント情報