理化学研究所 次世代計算科学研究開発プログラム 石峯 康浩(臓器全身スケールWG)
統計数理研究所 データ同化研究開発センター 斎藤 正也 (データ解析融合WG)
新潟国際情報大学 近山 英輔 (細胞スケールWG)
東海大学医学部内科学系循環器内科 七澤 洋平 (細胞スケール/臓器全身スケールWG)
理化学研究所 次世代計算科学研究開発プログラム 半田 高史(脳神経系WG)
理化学研究所 次世代計算科学研究開発プログラム 舛本 現(開発・高度化T)
理化学研究所 次世代計算科学研究開発プログラム 森次 圭(分子スケールWG)
(五十音順)
2011年9月26日27日の両日、兵庫県淡路市にある兵庫県立淡路夢舞台国際会議場において「バイオスーパーコンピューティングサマースクール2011」が開催されました。次世代生命体統合シミュレーション(ISLiM)のプロジェクトに参加する研究員が中心に企画・運営を行う若手の会としては昨年度のサマースクール・ウィンタースクールに引き続き3回目ですが、今回は「バイオスーパーコンピューティング研究会」(BSCRC)の後援のもと、名称を一新しました。
現在兵庫県神戸市において設置が進んでいる京速コンピュータ「京」が今年6月のTOP500で世界一になりました。ISLiMでは京速コンピュータ「京」の性能をフルに発揮するような生命科学の数値シミュレーションや大規模データ解析研究を行うためのソフトウエアを開発中ですが、このサマースクールでは、「京」で何ができるか、また、生命科学に対してどのような貢献ができるかをテーマに、「計算機・計算手法」と「アプリケーション」の二つのセッションを中心に講演方式で進められました。同プロジェクトに参加する研究員や関連分野の大学院生など総勢56人が参加し、活発な意見交換を行われました。
最初に「基調講演」として、次世代計算科学研究開発プログラムの茅幸二ディレクターから、ISLiMプロジェクトの道のりと今後の展望についてお話しがありました。次に、次世代計算科学研究開発プログラムの姫野龍太郎副ディレクターから、ISLiMで現在開発が進んでいるアプリケーションソフトウェアの現在の性能・開発状況と今後の「京」利用スケジュールについてご講演がありました。
次の「アプリケーション」のセッションでは、東京大学医科学研究所の上昌広先生による招待講演とISLiMの3チームの代表者からさまざまなスケールの生命体ソフトウェアに関する講演がありました。上先生からは研究者であると同時に臨床医でもある立場から、ゲノム解析に関連した個別化医療や医師不足の問題、また、東日本大震災に見舞われた福島県での活動状況についてお話しがありました。計算科学者にとっては解析すべきデータがあるというのは前提ですが、実は人材ネットワークを広げつつデータを収集する作業が大事である、という主張が印象的でした。データ解析融合チームの斎藤正也さんからはLiSDASによる哺乳類の概日周期転写ネットワーク解析の話とデータ同化ライブラリの紹介、細胞スケールチームの須永泰弘さんからは、細胞シミュレーション統合プラットフォーム(RICS)とその応用研究の紹介、また、脳神経系チームの加沢知毅さんからは、カイコガの嗅覚・運動神経系シミュレーションや神経回路のリアルタイムイメージングについてお話しがありました。
その後の懇親会・ポスターセッションでは35件のポスター発表があり、夜遅くまで議論が交わされました。参加された5人の大学院生に審査委員をお願いしたポスター賞の選定や、姫野先生のご提案による「エクサスケールコンピューティング」に向けた討論もそのなかで行なわれました。
二日目の「計算機・計算手法」のセッションではまず、富士通株式会社次世代TC開発本部PAプロジェクトの三吉郁夫先生、杉崎由典先生による招待講演ののち、粒子系・流体系シミュレーションとその高度化技法についてISLiMの3チームの代表者からご講演がありました。三吉先生からは、「京」のハードウェア構成やソフトウェアの開発状況の説明、杉崎先生からは、簡単な例を挙げながらのチューニング技法の説明があり、のちのQ&Aコーナーでは京開発者にしかわからない細かい点にまで教えていただきました。分子スケールチームの松永康佑さんからは分子動力学シミュレーション(MD)、特に長距離力の取り扱いの説明や開発中のPlatypus-MM/CGの紹介、高度化チームの大野洋介さんからは、特に短距離力におけるMDの高速化技法を「京」での実証例を挙げながら説明していただきました。臓器全身スケールチームの伊井仁志さんからは、オイラー型手法による血栓形成シミュレーションの話が、また、高度化チームの小山洋さんからは、微分方程式の数値解法における誤差とその原因についてお話しがありました。
ISLiM若手研究者の会合も第3回を迎えたこともあり、プロジェクトに関わるチーム間の交流を促すという当初の目的は達成されたのではと思います。今回は周知不足などによりうまくいきませんでしたが、今後は戦略分野や計算科学研究機構の研究者たちも参加者に取り込み、生命科学分野でのシミュレーション・大規模データ解析分野の若手コミュニティ作りに向けた会合になることを期待しております。
BioSupercomputing Newsletter Vol.5